古代から続く “竹とすだれ” の系譜を紐解く。県知事指定の民工芸品「八女すだれ」にも出会える室礼の空間
福岡県八女郡広川町、車窓越しに田畑や竹林が流れゆく道をたどると、静かに佇む佇まいの建物が姿を現します。ここは、創業から100年以上、竹・すだれ・天然素材の世界を探究し続ける老舗メーカー、株式会社鹿田産業 のショールーム「鹿田室礼ショールーム」。
観光地というには少し控えめかもしれませんが、ひとたび扉を開けば、伝統工芸のルーツに触れる旅が始まります。
●古代から続く “竹とすだれ” の系譜
建物に一歩入ると、柔らかな竹の香りが空気に溶け込んでいます。展示される数々のすだれや竹材のサンプル、その手触りに、実際に息をつくような心地よさ。
ここで最も印象深いのは、竹という素材がただ建材・装飾材として用いられてきたわけではなく、日本人の暮らしと信仰に深く根付いてきたということです。
例えば、室内用すだれ、いわゆる「お座敷すだれ」の起源は、奈良時代以前から伝わる竹製の「御翠簾(みす)」にまで遡るとされています。
さらに、竹そのものが「神が宿る植物」として神道的な自然観と結びついていたことも、展示で解説されています。
広川・八女地域は、かつて竹の産地として名を馳せ、竹ひご加工の技術が明治以降に盛んになりました。その土壌の中で、伝統工芸品としての「八女すだれ」が育まれたのです。
「八女すだれ」と呼ばれるこの調度品は、竹を材料に、職人が織機を足で踏みながら一本一本編んで仕上げる、極めて手仕事の多い工芸品です。
ショールーム内では、その工程を紹介するコーナーもあり、織機の音と竹ひごの細やかな動きを想像しながら眺めていると、時間が静かに流れていくのを感じます。また、使用される竹は、八女地方の竹=国産竹という点も「八女すだれ」ならではの誇りです。
●ショールームで感じる、素材へのこだわり
鹿田室礼ショールームは、ただ展示を見るだけの場所ではありません。竹やラタン(籐)といった天然素材を、実際に触れて、空間として体感できる場として設計されています。
例えば、窓装飾、間仕切り、建具、照明、家具——あらゆる用途に展開する竹・ラタンの世界を、あらゆる角度から体験できます。特に「透け感」や「風の通り」のような五感に訴える質感について、「すだれラボ」と称する実験スペースで、照度・色温度を調整しながら確認できるのも興味深いポイント。
竹の素材感は、木材とは明らかに異なります。しなやかさ、軽さ、そして素材そのものがもつ生命感があります。ショールーム内でその竹の縦糸・横糸の密度や節の揃え、編み方の違いを実際に手で確かめると、「あ、ここには職人が意図的に入れた“間”がある」と気づきます。
また、ラタンの展示空間も印象的で、軽やかでありながら強靭という二面性を備えた素材として紹介されています。天然素材としての持続可能性も打ち出しており、竹・ラタンともに環境配慮の視点が背景にあることも、展示から自然に伝わってきます。
●「八女すだれ」から「ラタン」へ、天然素材の旅
竹を素材とした八女すだれの歴史的背景を経て、ショールームでは次にラタン素材のコーナーへと誘われます。竹に始まり、ラタンに至るこの流れは、単なる素材の違いではなく、天然素材が醸し出す空気、質感、そして時代を越えた意匠の繋がりを感じさせてくれます。
たとえば、竹のすだれが持つ繊細な編み目、節の揃えが創る陰影。そして、その次元をラタンが別の位置から持ってくる。ラタン家具コーナーでは、曲線を描いた椅子や照明器具が、竹とはまた異なる“編むことで生まれるフォルム”を見せていました。
これら天然素材が「装飾品」や「建具」だけでなく、現代のインテリアや商空間へと展開されていることも、この場所の魅力です。竹もラタンも、ただ“古くて手作り”というだけではなく、現代の空間設計において“新しい可能性”を示していることが、ショールームのいたるところから伝わってきます。
●観光地としての魅力と、旅の余白
このショールームを“観光地”として捉えるなら、その魅力は二つあります。ひとつは「目に見える美しさ」に直結する展示と空間体験。竹の縦糸が光を受けて揺らめき、ラタンの椅子が静かに佇む。素材そのものが語りかけてくるような場です。
もうひとつは、「ルーツ・物語・手仕事」に触れることができる点。伝統工芸としての八女すだれ、竹文化、地域の産業の変遷…その奥行きを感じることが旅の醍醐味です。
特に、広川町・八女地域が竹の産地として培ってきた歴史。例えば「かつて60軒を超えたすだれ業者があったが、今では数社に絞られている」などの背景も紹介されています。
旅人としてこの場所を訪れるなら、ぜひ少し時間をかけて「素材を触る」「クールな展示を眺める」だけでなく、「職人の動線」「竹ひご一本の選定」「編むリズム」といった“見えにくい部分”に想いを馳せてみてください。
旅の一日、「観光地」としての華やぎよりも、「ものづくりの静けさ」「素材の深み」「工芸の息づき」を味わいたい方に、ぜひおすすめしたい場所です。竹にこだわり、ラタンも併せるその展示空間は、伝統のルーツを揺るぎなく抱えながらも、未来の可能性を静かに灯す灯台のようでもあります。
会場 | 鹿田室礼ショールーム https://shikada.co.jp/showroom-info/ 〒834-0114 福岡県八女郡広川町太田428 九州自動車道「広川」インターから1.8km ※Googleマップの仕様により場所名が異なって表示される可能性があります |
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入場料/料金 |
無料 |
お申込み | ショールームの特設ページから予約ください |
お問い合わせ |
鹿田室礼ショールーム TEL TEL.0943-32-1141 |