湯けむりと蕎麦の香りに包まれて——南小国を往く
阿蘇北外輪山の稜線を眺めながら、車をゆっくりと走らせる。熊本市内から国道57号、212号を上り、大観峰を越えると、風の匂いが少し変わる。山々の緑が深くなり、空が近くなる。道の向こうに見えるのは、やわらかな湯けむりの街、南小国町。
朝の空気はひんやりとしていて、窓を開けると土と草の香りが混ざり合って流れ込んできます。黒川温泉の案内板を通り過ぎたあたりで、「そば街道」という小さな看板があります。その瞬間、旅のスイッチが静かに入ります。せっかくなら、この道をたどって南小国の味をめぐってみようと思います。
■ そば街道——香りをたどる、ゆるやかな道
そば街道は、南小国町を南北に走る名もなき道に沿って点在する、そば好きにはたまらない名店を結ぶ道です。阿蘇の伏流水と、昼夜の寒暖差が育む良質なそばがこの町の自慢。季節ごとに香りが変わり、訪れるたびに違う表情を見せてくれます。
町の南側にある吾亦紅(われもこう)。「あか牛南蛮そば」は、南小国の名産・あか牛の旨みがつゆに溶け込み、香ばしいそばの風味と見事に調和しています。湯気の向こうに見える山並みまで、どこか穏やかに感じられました。
次に訪れた蕎麦菜(そばな)では、珍しい「手延べくずうどん」をいただきます。くず粉のなめらかな喉ごしと香りがほのかに重なります。ひと口ごとにやさしさが広がり、食べ終える頃には心までほぐれるようです。
川沿いの道を進むと、木のぬくもりが漂う戸無のそば屋が現れます。清流の音を聞きながら味わう「戸無そば」は、噛むほどに香りが立ちあがり、山の恵みをそのまま閉じ込めたようです。時間を忘れてしまう静けさの中で、一杯のそばが特別なごちそうに変わります。
さらに奥へ進むと、趣ある門構えの鬼笑庵(きしょうあん)。ここでは「鬼おろし」を添えたそばが評判です。大根おろしがそばの甘みを引き立て、さっぱりとした後味が心地よく残ります。
そば街道の終盤、草原が開ける場所に花郷庵(かごうあん)があります。「うまかもんそば」は、地元の野菜と出汁のやわらかな旨みが溶け合い、最後の一口まで丁寧な味わいが続きます。
一軒一軒を巡るうちに、そばの味をたどる旅が、土地の空気や人の温もりを感じる時間へと変わっていきました。
■ 六つの温泉地——湯けむりに包まれて
そばの香りに満たされた午後、黒川温泉方面に走ると、いたるところに温泉があるのに気づきます。
南小国には、黒川、田の原、満願寺、扇、小田、白川の六つの温泉地があります。どこも華やかさよりも、湯と人の温かさで心を癒やしてくれる場所です。
中でも印象に残ったのは、扇温泉のおおぎ荘でした。扇温泉に一軒だけある宿で、まるで山に抱かれるように静かに佇んでいます。源泉かけ流しの湯はやわらかく肌に寄り添い、湯上がりの身体を優しく包みます。
展望露天、岩露天、内湯、家族湯、離れ客室など楽しみ方も多彩です。
夕食にいただいたのは山里ならではの会席料理。炊きたてのご飯は、自家製のお米を使っていて、つやつやの照りがとてもきれい。噛むほどに豊かな香りが広がりました。
この宿の温もりと湯のやさしさに触れると、”贅沢”とは、こうした丁寧な時間のことなのだと感じます。
■ 小萩山稲荷神社の展望台「草原テラス」——風が教えてくれること
旅の締めくくりに訪れたのは、小萩山稲荷神社の展望台「草原テラス」です。駐車場から少し歩くと、緩やかな丘の上に広がる草原が姿を見せます。足元の草が風に揺れ、遠くには阿蘇山の雄大な景色。
南小国は、静けさの中に豊かさが宿る町です。そばの香り、湯けむり、草原を渡る風。どれも控えめで、けれど深く心に残ります。
この町は、何かを探す旅ではなく、忘れかけていた穏やかな時間を思い出すための旅にぴったりの場所です。
湯けむりの向こうに漂うそばの香りをたどりながら、また南小国に来ようと思いました。
| 会場 | 南小国町商工会 他 https://r.goope.jp/m-oguni-shokokai/ 〒869-2401 熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場1900-1 ※Googleマップの仕様により場所名が異なって表示される可能性があります |
|---|---|
| 入場料/料金 |
有料 各店舗にお問い合わせください。 |
| お申込み | お電話、ホームページ、SNS、情報サイト等からお申込みください。 |
| お問い合わせ |
南小国町商工会 TEL 0967-42-0142 |



